海外小説『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』感想|ゲーム業界を舞台に描く痛いほど切実な友情物語【ネタバレ有り】

原題: Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow/著者:ガブリエル・ゼヴィン(訳者:池田 真紀子)/出版社:早川書房/刊行年:2023

はじめに

この記事は、小説の読書感想文です。映像化されたもの(その予定のもの)を中心に、心に響いた作品を取り上げています。ドラマの感想同様に、素人目線の解釈に基づくため、思い込み、勘違い、間違いなどがあること、あらかじめご了承ください。また、感想はネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

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目次

『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』:概要

キーワード

作品の要素
  • 男女の友情
  • ゲーム業界の栄枯盛衰
  • 心と体、苦痛との闘い
  • 純粋な喜びと希望
  • リスタートの真意
没入感!読み応え十分!

あらすじ

セイディはMITの学生。ある冬、彼女は幼い頃一緒にマリオで遊んだ仲のサムに再会する。二人はゲームを共同開発し、成功を収め一躍ゲーム界の寵児となる。だが行き違いでゲーム制作でも友情でも次第に溝が深まっていき――。本屋大賞受賞作家による最新長篇

Books出版書籍データベースより

読後感と満足度

  • 穏やかな波を漂うような余韻
  • ノスタルジック
  • 充足感

間違いなく「友」になった1冊です
満足度は満点!

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『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』:感想

ここからはネタバレを含む感想です
未読の方、ご注意くださいね

偶然、見つけた小説『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』。

購入のきっかけは、Kindle版の半額キャンペーンセール!

単なる読書熱から手にした本でしたが、まさかの「忘れられない1冊」になりました。

セール沼、恐るべし(;´∀`)

ということで、ドラマや映画の感想同様に、思い入れたっぷりに読書感想文を書いてゆこうと思います。

ひとことでは言い表せない深み物語

この小説、「すっごくよかった!」

……それに間違いはない。
でも、何が良かったのか、どんな内容だったのかを言葉にできないもどかしさを感じています。

友情、絆、愛、仕事、生きがい……。
いろんな要素が一冊の中にぎゅっと詰め込まれてて、「結局どんな話だった?」って聞かれても、ひとことでは言い表せないもどかしさ。

でも、不思議なのは、それでも「複雑な話だった」とは思わなかったこと。

むしろその逆で、等身大の主人公たちが放つ生々しい生き様に引き寄せられて、気づいたら彼らの人生を伴走したかのように読み終えていました。

セイディとサム、心の機微

振り返ってみると、この小説の最大の強みは、主要人物の喜怒哀楽の描き方が非常に丁寧だった点ではないかと思い至ります。

特に、主人公であるセイディとサムの内面。
感情の動き、思考のクセ、迷いのひとつひとつまで。成長はあるけれど、ブレはありません。

天才ゲームクリエイターという特殊な立場にいるけれど、同じ「ひとりの人間」として感じられる。まさに、「等身大」という言葉がぴったり。

彼らの感情や行動に共感できるとか、それが正しいとか、そういうのではなく、「ああ、そうなんだ」と受け止められる。批評家じゃなくて、ただの読者としてこの二人の隣に座っている。

そんな感覚で読んでいて、気づいたことがあります。

サムとセイディって、喜びや楽しみは以心伝心のごとく簡単に分かち合えるんですが、怒りや悲しみはそうできない。

サムは、身体の痛みをずっと隠していました。

母親を奪った事故で負った足の怪我。一生消えないその重荷を背負い、ただ懸命に、がむしゃらに生きることでやり過ごしている。膨れ上がる治療費に心を痛めながら奨学金を得てハーバード入学を果たした努力の裏には、たぶん誰にも言えない体だけでなく心の痛みがずっとあったはず。

だからこそのあの頑固さなんだろうな、って。そんなふうに感じます。

一方のセイディは、ドーヴとの不毛な関係を隠していました。

完璧な男性優位社会のゲーム業界での圧倒的な孤独。そんな中で、憧れの存在だったドーヴに出会ってしまう。ふたりの歪んだ関係はいち読者として不快感を伴うものでしたが、セイディにとっては承認欲求が満たされる関係だった……。


なので、彼女の根底にある怒りは、たぶんドーヴにじゃなくて、自分自身に向けられてる。だからこそ、ドーヴとの関係を相談することすらできなかった。そう感じます。

隠していた「重荷」はぜんぜん違うものだったけれど、二人とも「弱さを見せたら、何かが壊れる」と思い込んでるところは、驚くほどよく似ています。

あんなに近い関係で、あんなに濃密な共同作業をしていたのに、一番痛いところだけは見せ合えなかった。

この「近くにいる人にこそ言えないことがある」という感覚、激しく共感できた部分です。実際、私もそうだから。「自分は違うよ」って言う人もいるかもしれないけれど、痛いところを隠すのは動物が持つ本能のようなものなのかもしれないと、深く考えさせられました。

緻密、マークスの設計図

マークスは、そこかしこに「日本人っぽい」と感じる部分がありました。

自分が持つ「余裕」を他者を支えることに使えるマークスは、電車やバスで必要としてる人がいれば当たり前のように席を譲る図を簡単に想像できてしまう……そんな人柄です。

自己主張より調和を求め、対話を大切にして、さりげなく気を配る。日本の青年っぽい、と言ったら言い過ぎでしょうか。日系アメリカ人である彼が日本のインターナショナルスクールで育ったという設定が、「妙に説得力がある!」と思いました。

面白いなと思ったのは、サムとセイディは自分の弱さを隠し、マークスは相手への気遣いそのものを隠すという点。隠す対象は違うけれど、三人とも、何かを見せないようにしながら生きているんですよね。

そして、マークスの背景がここまで緻密に作り込まれているということは、サムとセイディの「ブレなさ」にも、同じだけの緻密な設計があるのかもしれません。マークス一人を丁寧に見ることで、逆に他の二人の輪郭がくっきり見えてくる、そんな構造になっている気がします。

人生は、それぞれの舟で漕ぎ出す航海のよう

この小説を読んで、ふと浮かんだイメージがあります。

それは、人はそれぞれ生まれながらに舟に乗っていて、人生という大海原に漕ぎ出していく……というイメージ。

大きな船に乗る人もいれば、自力で漕ぐしかない小舟の人もいる。イカダしか持たされない人だっているかもしれません。その違いは、たぶん生まれた環境。選べるものではありません。

シングルマザーのもとに生まれたサムは小舟。
自力で漕ぐしかない小さな舟に乗る彼にとっての「成功」とは、報酬や大衆に受け入れられること。生き延びて、安定を手に入れること。

一方、裕福な家に生まれたセイディは大きな船。

だから彼女にとっての「成功」とは、革新的な芸術性、クリエイティブであること。安定がすでに保証されているから、報酬より自己表現に意識を向ける余裕があった。

二人がゲーム制作でぶつかった価値観のズレは、単なる性格の不一致じゃなくて、生まれ持った舟の違いから来る、ある意味避けようのないものだったのかもしれません。

そして、これが一番言いたかったことなんですが、人生は航海のようなものだということ。

凪いだ日もあれば、大嵐の日もある。でも、沈まずに前へ漕ぎ続けるしかない。サムとセイディの航路は、時に大きく離れてしまいます。何年も口をきかなくなるくらいに。それでも、二人は同じ海にいる。

友情や絆って、ずっと隣にいることじゃなくて、離れてても、方向が違ってても、また交差する瞬間が必ずやって来る。「同じ海にアイツがいる」と思うだけで勇気や希望を抱くことができる。そう思える友人を持てるのは、本当に稀有なことなのだと思います。

まとめ

たぶんこの本は、何度も読み返すことになりそうです。

それは、また彼らに会いたくなるから。そして、読むタイミングによって、きっと別の感想を持つと思うから。人物描写が深いからこそ、読み返しても新鮮な楽しさを味わえると思うのです。

さて、『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』は、すでに映画化が決まっています。

映画化は小説の刊行前に決まっており、著者であるゼヴィンもエグゼクティブ・プロデューサー(製作総指揮)としても参加しているとのこと。

記事執筆時点で発表されているキャストを見ると、セイディ中心の物語になるかな?なんといっても、セイディ役は、私のお気に入り!『ノーマル・ピープル』で心を鷲掴みにされたデイジー・エドガー=ジョーンズですから!

でも、彼女特有の透明感と私の想像しているセイディ像が重ならない……(;´∀`)

これは、もしかしたら、まったく違うセイディに出会えるのかもしれませんね!原作のイメージ通りじゃないからこそ、新しい一面が見えてくる可能性だってあるはずですよね。

何度も読み返すことで別の視点が開けるように、映像化もまた、もうひとつの視点によるセイディとの再会なのかもしれない、と思うことにいたしましょ〜。
どんなセイディになるのか。楽しみに待とうと思います。

お読みいただきありがとうございました

映画化情報

情報は記事執筆時のものです。
変更になる場合もありますので、各自ご確認お願いします(* ᴗ ᴗ)⁾⁾

  • セイディ:デイジー・エドガー=ジョーンズ(ドラマ『ノーマル・ピープル』、映画『ザリガニの鳴くところ』)
  • サム:スカイ・ヤン
  • マークス:ショーン・カウフマン(ドラマ『私たちの青い夏』)
  • 監督:シアン・ヘダー(『コーダ あいのうた』)
  • 2027年11月に公開予定(全米にて)

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